発行日 : 2009年10月07日

交通機関に影響を与える短時間で変化する局地的な気象現象を捉え、安全の向上を目指す

小型レーダーネットワークを活用した革新的な取り組みが始動

株式会社ウェザーニューズ(所在地:東京都港区、代表取締役社長:草開千仁)は、従来の気象レーダーでは観測が難しい、交通機関に大きな影響を与えるゲリラ雷雨や竜巻、突風、豪雪などの局地的な気象現象を捉える、高頻度で高精細な小型レーダーを利用し、相互に協調して観測する、世界初の“小型レーダーネットワーク”を活用した革新的な取り組みを始動します。
この小型レーダーネットワークの必要性は、2005年より開催された道路、鉄道、航空など交通の現場に関わる企業と当社が、交通における気象リスクをいかに軽減させるかを検討する「交通気象を考える会」を通じて議論されてきました。現在、ほぼ全国で観測が可能な実験免許を利用した“小型レーダーネットワーク”を活用し、急激に発達する雪雲やゲリラ雷雨などの観測において成果を挙げており、今年中に数十台に広げ、交通関連企業とともに利用技術を開発していきたいと考えています。
より詳細で正確な実況データを得るのはもちろんのこと、将来的には気象の最先端を行く米国オクラホマ大学との共同研究で進めている竜巻発生の予測モデルとあわせて、交通に関わる企業や利用者の安全、快適、定時性、時間節約の実現につながるサービスの創造を目指します。

「交通気象を考える会」で小型レーダーの利用方法を議論

近年の増加傾向にあるゲリラ雷雨、竜巻や突風、豪雪などの短時間で局地的な気象現象は、社会インフラである交通機関に大きな影響を与え、被害も多く出ています。2005年に発生した列車脱線事故も局地的な気象現象が原因と言われており、こうした災害を防ぐことを目的に「交通気象を考える会」は発足しました。
「交通気象を考える会」は、道路、鉄道、航空など、実際の交通の現場に関わる企業が参加しています。アドバイザーにオクラホマ大学の佐々木名誉教授を迎え、ゲリラ雷雨や豪雪など、交通各社が持つ業務上の気象リスクにあわせた対応策を取るため、短時間に観測可能な小型レーダーネットワークの必要性が議論されてきました。

小型レーダーネットワークに使用されるレーダー

小型レーダーネットワークに使用されるレーダー

生駒で観測する小型レーダー

生駒で観測する小型レーダー

短時間で局地的な気象現象を捉える小型レーダーの特徴

小型レーダーネットワークは、「交通気象に影響を与える局地的な気象現象を捉える」ことが目的です。当社は2007年より次世代のレーダー観測技術やその利用方法に関する研究・開発をするアメリカのプロジェクト、CASA(The Center for Collaborative Adaptive Sensing of the Atmosphere)に参加し、小型レーダーに関するノウハウを蓄積してきました。 短時間に局地的な強雨をもたらす雨雲は、発生から消滅までの時間が非常に短く、既存のレーダーシステムではその発生や発達を捉えるのは困難でした。一方、今回開発した小型レーダーは、従来のレーダーでは捉えられなかった雨雲を捉えられる特徴を持ち、さらに複数のレーダーをネットワーク的に配置して協調観測をすることで、雨雲の発生や発達をいち早く検知し追跡することが可能になります。

【小型レーダーの特徴】

  • 航空機に搭載するレーダーを利用したもので、非常に小型である
  • 既存の気象レーダーは最短1分に1回の観測であるのに対し、本レーダーは6秒に1回の高頻度な観測ができるため、リアルタイムな実況監視で局地的な気象現象を見逃さない
  • 空間解像度が数百メートルメッシュの高解像度な観測が可能
  • 既存の気象レーダーのデータは高度2kmより高い比較的高層の雨雲の情報であるのに対して、本レーダーはゲリラ雷雨や竜巻、突風などの発生や発達の予測に重要な指標となる、対流圏下層(高度2km以下)の雨雲を捉えることができる
  • 雨雲の強度の情報の他にも「風」の情報も得られ、雨雲の発達や移動方向を捉えることが可能
  • 複数のレーダーの協調観測で、長時間で広範囲にわたり雨雲の発生や発達を捉え、その動きを追跡することができる
  • 車を利用した移動観測で機動性を発揮
小型レーダーが捉えられる雨雲

小型レーダーが捉えられる雨雲

移動観測車での観測の様子

移動観測車での観測の様子

冬の試験観測、今夏のゲリラ雷雨の集中観測を実施

小型レーダーによる観測結果

小型レーダーによる観測結果

小型レーダーネットワークを活用した観測を段階的に実施しており、既に成果を挙げています。
 08年冬には、「急激に発達する雪・雨雲を捉え、迅速な雪氷対策を行いたい」、「突風、強風を捕らえより安全性の向上を行いたい」という交通気象を考える会で共有したテーマをもとに観測を実施いたしました。結果として、既存のレーダーでは捉えられなかった低層や山かげの雪雲、急速に発達する雪雲を捉えることができ、新たな対応策情報への可能性が見えてきました。
今夏には、交通機関が集中する南関東、名古屋、関西エリアでゲリラ雷雨の観測を実施いたしました。過去の発生状況にあわせて配置した小型レーダーに加え、当社の携帯電話利用者である「ゲリラ雷雨防衛隊」会員からのレポートをもとに小型レーダーを搭載した移動観測車を出動させ、集中的な観測を実施いたしました。結果として、昨年の関東のゲリラ雷雨の補足率76.7%に対し、今年は8月末時点で83.5%の捕捉に貢献しました。
 これ以外にも、7月に発生した群馬県館林市の竜巻、集中豪雨により大きな被害を受けた山口県防府市などにおいて観測を行い、二次災害を回避するための観測情報を捉えることに成功いたしました。

将来は全国に展開、予測にも活用

小型レーダーネットワーク 展開イメージ

小型レーダーネットワーク
展開イメージ

当社は、将来この取り組みを通じて得た技術、成果を活用して、全国に100か所以上ある交通の難所をカバーする小型レーダーネットワークの展開を目指します。
あわせて当社は現在、オクラホマ大学との共同研究で竜巻発生の予測モデルを開発しており、小型レーダーによる“実況”の把握、そして竜巻発生予測モデルによる“予測”により、更に安全を高めるサービス、コンテンツの提供が可能になります。

交通気象を考える会のメンバーからのコメント

●株式会社日本航空インターナショナル 気象グループ長  藤堂憲幸氏
航空気象の世界において、予測は4割・実況が6割という状況で気象情報の把握及び活用が行われています。実況監視の正確さなくして正しい対応などできません。小型レーダーネットワークはこの点で非常に大きな期待を持っています。またデータをいかに活用する現場へ迅速に伝え、そのデータを使いきれるかが安全運航を堅持するための重要なポイントです。データの垂れ流しではない、ハードとソフトの融合が活用時のポイントになるのではないでしょうか。


●東日本旅客鉄道株式会社 防災研究所 島村 誠氏
安全・正確な鉄道運行にとって正確な気象の把握は不可欠です。しかし、とびとびの地点に設置された雨量計、風速計や地表付近の観測が難しい従来の気象レーダーでは、線路周辺の詳細かつ連続的な気象情報をリアルタイムに取得するうえで限界がありました。これらの問題を解決できる画期的な『小型レーダーネットワーク』に守られながら列車が走れるようになれば、気象災害に対する鉄道の安全性が飛躍的に向上するものと期待しています。


●東日本高速道路株式会社 宇都宮管理事務所長 千田洋一氏
高速道路の安全を管理するうえでは、「事前予測」に基づく「事前対応」が重要なキーワードです。これまで局地的なゲリラ豪雨や微妙な雨雪判定など事前予測が困難な事象に対しては、突発的な対応とならざるを得なかったケースや、空振り覚悟で過大な対応をとってしまったケースも少なくありません。小型レーダーによって事前予測の精度が高まり、的確かつ効率的な道路管理に大きく寄与することを期待します。


●米国オクラホマ大学 佐々木嘉和名誉教授
米国や日本にある既設のレーダーでは、急激に変化する巨大積乱雲を捉える事は難しいことがわかってきました。米国ではCASAプロジェクトが進行中ですが、レーダーはいずれも中~大型で、基本的に地上固定型です。対して、ウェザーニューズの小型レーダーネットワークは、「小型で移動型」と独特です。また実況の観測だけに留まらず、巨大積乱雲から竜巻が発達する予測シミュレーションも私たちと共同開発中で、現在スーパーコンピュータで1週間以上かかる計算式を数分で実現できるモデルの構築も行っており、このレーダーネットワークは将来ますます発展する可能性があります。


※CASAとは?
科学技術に関する研究開発に対して支援を行う、米国の連邦機関NSF(National Science Foundation:米国科学財団)のプロジェクトの1つとして、2003年に発足。高性能な小型ドップラーレーダーを多数配置してネットワークを構成し、現在運営されているレーダーでは観測するのが難しかった突風や竜巻などの対流圏下層の現象を捉える観測システムの開発と、その利用方法の研究を目的としている。研究を目的としているため、レーダーネットワーク構築までには至っていない。

株式会社ウェザーニューズ(東証1部 <4825>)について

世界主要国 / 地域に32の営業拠点を持つ、世界最大の民間気象情報会社。
海、空、陸のあらゆる気象現象の世界最大規模のデータベースを有し、独自の予報により、航空、海運、流通、自治体などの各業務の問題解決情報を提供している。
一般個人に対しては、携帯電話、インターネット、BSデジタル放送等のメディアを通じて、個人の生活を支援する各種情報を提供。