2009.08.11
左の図(図1)から最近1週間で北東航路側の海氷の減少が顕著であることが分かります。
タイミル半島付近に海氷が残り航路開通には至っていませんが、各々の海域で面積や氷密接度は減少してきています。
北東航路側の減少が顕著な理由としては、この付近は多年氷が少なく薄い氷に覆われていることがあげられます。ビューフォート海付近で時計回りに循環するビューフォート還流や、ベーリング海峡沖からシベリア沿岸、に沿ってフラム海峡の方に向かうトランスポーラードリフトの影響で、多年氷はグリーンランド側にたまりやすい一方、夏のアラスカ、シベリア沿岸は開水面域を形成しやすいのです。
春先の気温が昨年と比べて高めだったこともあり、今後ますます融解が進むと考えられ北東航路の開通が予想されます。
北東航路側ほど顕著ではないものの、北西航路側でも海氷の融解が進んでいます。特にカナダ多島海の海氷域の90%ほどを占めていた定着氷が7月下旬から8月上旬にかけて40%程度まで減少し、流動的になっています。それに加えて、今年のようにエルニーニョ現象が発生した年はカナダ北極圏の気温が平年より高めとなる傾向もあるため、今後、北西航路の開通に向けて急速に融解が進む可能性もあります。
海氷面積の減少速度はやや鈍り、現在の北半球全体の海氷面積は昨年と同程度ながら若干多めで、観測史上3から4番目の少なさです。北西航路側、北東航路側それぞれで見ると観測史上3番目の少なさでした。
NW Passage |
Gulf of St.Lawrence |
Grand Banks |
Labrador Sea |
Davis Strait |
Baffin Bay |
Canadian Arctic E |
Canadian Arctic W |
Beaufort region |
Chukchi | Bering West |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | |
Greenland Sea SW |
Foxe Basin |
||||||||
IF |
NE Passage |
Bering West |
Chukchi | East Siberian |
Laptev | Kara Sea N |
Barents Sea NE |
Barents Sea S |
Barents Sea NW |
IF | IF | IF | IF | IF | |||
Kara Sea S |
|||||||
IF |
海氷密接度 | 航路状況 | |
7以上 | 砕氷船無しでは航行不能 | |
4以上6以下 | 一定ランク以上の耐氷船が航行可能 | |
3以下 | 耐氷船が航行可能 | |
IF | 海氷無し(Ice Free) | 通常船舶が航行可能 |
表. 北東・北西両航路上の各海域における海氷状況.
両航路ともまだ開通には至っておらず航路状況としては先週と同じ状態です。ただ衛星画像などから、融解が進み、面積や氷密接度が減少している海域が多いのが分かります。北東航路側ではカラ海、ラプテフ海、東シベリア海での融解が顕著でカラ海南部の氷は殆ど溶けています。カラ海北部、ラプテフ海にまだ密接度の高い海氷が残っていますが、開通の可能性がありそうです。
北西航路側では最近の気温上昇に伴い定着氷が浮遊氷となってきました。
ウェザーニューズの独自の海氷予測モデルI-SEEによると、北極海の海氷は今後も減少を続けるものと予測されます。特に、現在急速に減少中である東シベリア海やラプテフ海での海氷の後退が顕著であり、北東航路は今月中にも開通する可能性が示唆されています。これには、8月にかけて東シベリア沿岸付近の気温が摂氏10度から25度程度に上昇する予想となっていることが大きく影響しています。
カナダ側の海氷も融解により減少しますが、シベリア側ほど顕著では無く、今月中に北西航路が開くことは無さそうです。
図4. モデルによる北極海の海氷予測.