2009.08.25
北東航路側で残っているタイミル半島付近の海氷ですが、ギッシリ張っていた状態から少しばらけだし氷密接度も8-9程度まで減少したことが、衛星画像から判別できました。航路状況としては先週までと変化なく、まだ砕氷船なしでは通れない状態ですが、一旦海氷がばらけだし海水面が露出すると一般的により融解が進みやすくなるので、今後海氷面積が最小となる9月に向けて融解が加速していくことが考えられます。一方、この海域付近はタイミル半島付近にある高気圧と、東シベリア海付近にある低気圧の影響で、陸地に向かう北風が吹き(図1)気温は今後今までと比べかなり低めとなる予想です。これはエルニーニョが発生した年にはタイミル半島付近の気温は平年と比べ低め、という統計的調査とも一致しています。今後どのような推移を辿るのか予測は困難な状況ですが、GICで監視を続けていきます。
北西航路側はカナダ多島海のプリンスオブウェールズ島の南に、まだ密接度10の海氷が残っています。この付近では南よりの風が吹き今後の気温は、今までと同じくらいを維持する予想です。これもエルニーニョが発生した年には北西航路側、カナダ多島海付近の気温は平年より高め、という調査結果と一致していますが、今後プリンスオブウェールズ島の南にある海氷がどこまで融解するか監視を続けていきます。
海氷面積の減少速度は先週までの足踏み状態を脱して少し加速した様です。ただ昨年や一昨年の同時期と比べると海氷面積は大きく、現在の北半球全体の海氷面積は昨年、一昨年についで観測史上3番目の少なさです。北西航路側、北東航路側それぞれで見ても観測史上3番目の少なさでした。
NW Passage |
Gulf of St.Lawrence |
Grand Banks |
Labrador Sea |
Davis Strait |
Baffin Bay |
Canadian Arctic E |
Canadian Arctic W |
Beaufort region |
Chukchi | Bering West |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | |
Greenland Sea SW |
Foxe Basin |
||||||||
IF |
NE Passage |
Bering West |
Chukchi | East Siberian |
Laptev | Kara Sea N |
Barents Sea NE |
Barents Sea S |
Barents Sea NW |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | ||
Kara Sea S |
|||||||
IF |
海氷密接度 | 航路状況 | |
7以上 | 砕氷船無しでは航行不能 | |
4以上6以下 | 一定ランク以上の耐氷船が航行可能 | |
3以下 | 耐氷船が航行可能 | |
IF | 海氷無し(Ice Free) | 通常船舶が航行可能 |
表2. 北東・北西両航路上の各海域における海氷状況.
両航路ともまだ開通には至っておらず航路状況としては先週と同じ状態です。今週の変化を衛星画像などから判断すると、まず北東航路側では、東シベリア海でドミリヤラプテバ海峡がアイスフリーとなって先週のオレンジ(一定以上の耐氷船なら航行可能)から緑(一般船舶で航行可能)に変化しました。また、タイミル半島付近のカラ海、ラプテフ海で今週のトピックでも触れた様に海氷がばらけだし、氷接度は9-10だったものが、8-9程度まで減少しています。ただ、まだ砕氷船無しでは航行できない状況には変わりありません。
北西航路側ではプリンスオブウェールズ島の南側に密接度10の海氷が残っており、航路開通を阻んでいます。バロー海峡からサマーセット島とプリンスオブウェールズ島の間の航路への入り口に密接度4-6の海氷が残っているほかは、プリンスオブウェールズ島の東側の海氷はかなり融解が進み、密接度1-3程度なのですが、そこから島の南を通らずにキングウィリアム島を東回りしてクイーンモード湾に抜けるルートは、浅瀬があってヨットや超小型の船舶しか通れません。また、ビューフォート海のあたりでは沿岸部に海氷がかなり接近してきています。24日の最新データでは航路開通状態が保たれていますが、20日のデータではバサースト岬に付きそうな海氷が観測されており、ビューフォート海での海氷の動きには注意が必要です。
ウェザーニューズの独自の海氷予測モデルI-SEEによると、北極海の海氷は今後も減少を続けるものと予測されます。しかし、北東航路側のタイミル半島付近では沿岸部に向かう流れがあって海氷の接近に注意が必要です。北西航路側のビューフォート海では、西よりまたは東よりと海岸線と平行な動きが予想されていて、目先は海氷が接岸して航路を塞いでしまうことはなさそうです。
図4. モデルによる北極海の海氷予測.