2009.09.01
海氷は両航路で融解を続けていますが、タイミル半島付近及びカナダ多島海西部の海氷が残り両航路の開通を阻んでいます。8月の気温の平年差(図1)を見てみると、北西航路側のカナダ多島海では平年値と比べ2度から5度、北東航路側のタイミル半島付近では0度から2度平年値よりも気温が高かったことが伺えます。この傾向は極域全体に見られ、両航路付近で高気圧が優勢で晴れて気温が上がった為と考えられます。北西航路では北米からカナダに暖かな空気が流れ込み、より気温が高くなりました。
現在の両航路付近の気温(図2)は北東航路側の高緯度の沿岸部(ノバヤゼムリャ島付近)で低温が見受けられるものの、殆どの領域では5度から9度の範囲です。
8月の海氷の動きは、現在東シベリア海にある低気圧に支配されました。低気圧は期間中ゆっくりと西へ移動し、月始めに高気圧の影響でビューフォート海に集まっていた海氷をタイミル半島付近に移流しました。
海氷面積の減少速度は昨年や一昨年と比べるとやや鈍い様ですが今週も減少が続きました。現在の北半球全体の海氷面積は昨年、一昨年についで観測史上3番目の少なさです。北西航路側、北東航路側それぞれで見ても観測史上3番目の少なさでした。例年の傾向から今後もうしばらく減少が続くものと予想されます。
NW Passage |
Gulf of St.Lawrence |
Grand Banks |
Labrador Sea |
Davis Strait |
Baffin Bay |
Canadian Arctic E |
Canadian Arctic W |
Beaufort region |
Chukchi | Bering West |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | |
Greenland Sea SW |
Foxe Basin |
||||||||
IF |
NE Passage |
Bering West |
Chukchi | East Siberian |
Laptev | Kara Sea N |
Barents Sea NE |
Barents Sea S |
Barents Sea NW |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | ||
Kara Sea S |
|||||||
IF |
海氷密接度 | 航路状況 | |
7以上 | 砕氷船無しでは航行不能 | |
4以上6以下 | 一定ランク以上の耐氷船が航行可能 | |
3以下 | 耐氷船が航行可能 | |
IF | 海氷無し(Ice Free) | 通常船舶が航行可能 |
表. 北東・北西両航路上の各海域における海氷状況.
両航路ともまだ開通には至っておらず航路状況としては先週までと引き続き同じ状態です。北西航路側のカナダ多島海西部では、サマセット島やプリンスオブウェールズ島付近に分厚い一年氷があって航路開通を阻んでおり、すぐに完全に融解する可能性はなさそうですが依然融解が続いています。フォックス湾では殆どの領域で氷密接度が1以下の状態ですが、北東の領域に密接度7から8の海氷が残っています。北西航路ではそのほかの領域は開通しています。MODISの衛星画像から判断すると北東航路ではラプテフ海、カラ海でわずかに海氷の減少が見られるものの、航路開通までには至っていません。
ウェザーニューズの海氷予測モデルI-SEEによると、9月の前半は北東航路側に低気圧が居座りタイミル半島付近への海氷の移流がありますが、この状態は長続きせず別の低気圧がチャクチ海に出来て東シベリア海への移流が優勢となり、9月中ごろまで続きます。北東航路のタイミル半島付近の海氷は減少し9月半ばに開通する可能性がありそうです。北西航路側ではカナダ多島海で引き続き海氷が減少します。大気の循環によりグリーンランド海付近への海氷の移流が予測されます。アラスカ沿岸のビューフォート海では月の前半海氷の減少が予測されていますが、付近に出来る高気圧高気圧の影響で海氷の移流もあり領域内の密接度は変動しやすい見込みです。
図5. モデルによる北極海の海氷予測.