2009.09.22
海氷は明らかに増加し始めました。今年の夏は北西航路、北東航路とも開通せずに終了した様です。北西航路側はプリンスオブウェールズ島の南の海氷は先週以降も融解を続け、氷密接度1以下になったのですが、島の北部で凍結が始まり、バロー海峡付近が氷密接度1-3以上の氷でブロックされています。北東航路側でも海氷面積の増加から凍結が始まっていることが分かります。北東航路側で残る海氷は、セーベルナヤ・ゼムリャのポリシェビク島とタイミル半島のチェリンスキ岬の間にあるもののみですが、氷密接度は7-8以上です。
図1は北東航路側の航路図を示すもので、図中下の方にあるグラフはこの夏の北東航路側の航路状況を各海域ごとにまとめたものです。ラプテフ海で最後まで海氷が残りましたが、ユーラシア大陸の両端にあるバレンツ海、チュクチ海、ベーリング海では早くに海氷が溶けています。これは太平洋や大西洋から暖かな水が流れ込む為と考えられます。カラ海南部でも比較的早く8月11日に海氷が溶けましたが、これはオビ川から淡水が流れ込んでいることと関係しているのかもしれません。この夏の気温は北東航路側では平年より低め、北西航路側では平年より高めでこれはエルニーニョの起きた年の傾向と一致していました。
海氷面積は北極域全体でも北東、北西両航路側でも明らかに増加し始めました。この夏の海氷面積の最小値は9月9日の4.76x106m2で2007年、2008年に引き続き観測史上3番目の少なさでした。北西航路側、北東航路側それぞれで最小値を見ても3番目の少なさでした。今年の海氷面積の推移の特徴として、初夏の5月ごろに海氷面積が大きかったこと(一時ここ10年で一番多い時期もありました)と、7月下旬から8月上旬にかけての融解が昨年や一昨年と比べて緩やかだったことがあげられます。北西航路側で5月の気温がかなり低めだったことや、北東航路側で8月の気温が昨年や一昨年に比べると低めだったことがその要因の一つと考えられます。
NW Passage |
Gulf of St.Lawrence |
Grand Banks |
Labrador Sea |
Davis Strait |
Baffin Bay |
Canadian Arctic E |
Canadian Arctic W |
Beaufort region |
Chukchi | Bering West |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | |
Greenland Sea SW |
Foxe Basin |
||||||||
IF |
NE Passage |
Bering West |
Chukchi | East Siberian |
Laptev | Kara Sea N |
Barents Sea NE |
Barents Sea S |
Barents Sea NW |
IF | IF | IF | IF | IF | IF | IF | |
Kara Sea S |
|||||||
IF |
海氷密接度 | 航路状況 | |
7以上 | 砕氷船無しでは航行不能 | |
4以上6以下 | 一定ランク以上の耐氷船が航行可能 | |
3以下 | 耐氷船が航行可能 | |
IF | 海氷無し(Ice Free) | 通常船舶が航行可能 |
表. 北東・北西両航路上の各海域における海氷状況.
北西航路側ではプリンスオブウェールズ島の南側は開通したもののバロー海峡付近が密接度1-3以上の海氷でブロックされてしまいました。従って航路状況としてはオレンジで先週と変化無しです。レゾリュード(Canadian Arctic)の気温は既にマイナス10度近くまで下がっています。フォックス湾を経由する航路も、オレンジで変化無し、チュクチ海では航路は開通していますが海氷が増加し始めています。北東航路側では、航路状況は先週と変わらず赤、ラプテフ海のチェリスキン岬とボリシェビク島の間に、海氷が残っています。両航路ともこの夏は完全開通することなく冬を迎え高緯度の領域から凍結が始まっています。
I-SEEモデルの予測によると、海氷はグリーンランドやチュクチ海に移流し、同時にこの海域で凍結も起こります。このパターンは10月いっぱい継続する見込みです。次週も北東航路側は0度からマイナス5度と低温が続く予想です。北西航路側ではマイナス5度からマイナス10度の予想で、高気圧に覆われ晴天ですが冷え込みが厳しく海氷の凍結も進行しそうです。
注).尚、この図では航路が開いている様に見えますが、これはこのモデルの初期値に用いている衛星データ(AMSR-E)の氷縁の処理の問題で、実際には開通していません。
図4. モデルによる北極海の海氷予測.