2010.08.06
ここ数年、北極海の夏の海氷は少ない状況が続いていますが、今年の夏も同様の傾向にあることが衛星解析から確認できます。春にはボーフォート海上に張った高気圧が北極海の海氷を効果的に大西洋に押し出す形となり、そのために6月にはその月としての観測史上最小の海氷域面積を記録しました。7月以降は減少傾向が若干緩やかになり、現在の海氷域面積は観測史上2番目に少ない水準で推移しています。地域毎に見てみると、今年は西半球側での減少が顕著です。東半球側では、ラプテフ海西部の広い範囲に海氷が残り、若干融解が遅れています。今後も北極海の海氷は減少を続け、8月下旬から9月上旬にかけて最小のピークを迎えます。北極海航路が開く可能性は十分にあり、今年は特に海氷の融解が進んでいる北西航路の開通可能性が高まっています。
8月初旬現在、北極海の海氷域面積はおよそ600万km2で、現在も減少を続けています(Figure 1a)。これは、観測史上最も海氷が少なかった2007年ほど少なくは無いものの、昨年や一昨年を若干下回り、過去2番目に少ない面積です。東半球と西半球についてそれぞれ見ると(Figure 1b, Figure 1c)、6月の西半球側での減少が大きかったことがわかります。また、海氷分布画像(Figure 2)によれば、西半球側のカナダ多島海沿岸域で海氷の融解が例年よりも進んでいる様子が見られます。東半球側では、昨年とほぼ同程度の海氷分布が見られますが、ラプテフ海西部については昨年よりも海氷が多く残っています。
図3. 北東・北西両航路上の各海域における海氷状況.
Figure 3は東西の北極海航路の現在の通行可能性を示しています。海氷が急速に減少していることから、今年の夏に北極海航路が開通する可能性は十分に考えられます。過去数年について振り返ると、2005年にはアジアとシベリアを結ぶ北東航路が開通しました。2007年にはアジアと北米を結ぶ北西航路が開通、2008年には北西・北東の両航路が初めて同時開通しました。一方、昨年は両航路ともに開通には至りませんでした。これは、海氷の融解があまり進まなかったこと、海氷が航路を開通させる方向に流れづらかったことが原因と考えられます。このように、航路は毎年開くというものでは無く、その年の気象条件などに大きく依存します。よって、今年の開通を現時点で断言することはできませんが、現在までの傾向としては、北西航路側での融解が顕著に見られ、今後の推移が注目されます。
Figure 4はウェザーニューズで独自開発した海氷予測モデル"I-SEE-Engine"の予測結果です。今後も北極海の海氷が減少を続けることが予測されています。海氷の流れについて見てみると、しばらくは時計回りの循環になっていますが、今月後半には逆に反時計回りの循環となり、流出が抑えられる流れとなっています。ただ、20日頃までにはカナダ多島海域での融解がかなり進んでいること、またシベリア側ラプテフ海西部の氷も徐々に後退していくことが予想されています。
図4. モデルによる北極海の海氷予測.