2010.09.02
9月に入り、北極海の海氷域は今年の最小のピークを迎えようとしています。今夏の海氷域は観測史上最小となった2007年は下回らないものの、これまでで2番目か3番目に少ない面積となる見込みです。
北西航路(アジア〜北米)については、カナダ多島海の海氷が例年以上に融解しているため、開通の可能性が高まっています。現在は、いくつか選択肢のあるルートの内、南回りのルートがほぼ開通と言って良い状況になっています。しかし、ルート付近の2箇所で船舶に影響を及ぼし得る海氷が残っており、短期間の変動で再びルートが閉じる可能性もあるため、まだ完全な開通とは言えません。今後の状況次第では、数日中にも完全開通する可能性があります。
北東航路(アジア〜欧州)については、ラプテフ海とカラ海を隔てるVilkitsky海峡とその周辺海域に海氷が残っているため、開通には至っていません。しかし、この箇所での砕氷船のエスコートが得られれば、耐氷船舶での航路利用は比較的現実的なものになってきています。実際に、8月にはロシアの商業タンカーが、原子力砕氷船のエスコート付きでの航行に成功しています。
9月中には、北極海の海氷域は再び拡大に転じる見通しです。それまでの海氷の動向、北極海航路の開通の有無が注目されます。
Figure 1aは北極海の海氷域面積の推移を示しています。北極海の海氷域面積は現在およそ480万km2まで減少しています。この時期としては、2007年 (430万km2)、2008年(460万km2)に続き観測史上3番目に少ない面積です。海氷域は現在も縮小傾向にありますが、今年の最小のピークが近づいていることもあり、縮小の速度は弱まりつつあります。西半球側の面積(Figure 1b)と東半球側の面積(Figure 1c)をそれぞれ見ると、西半球側の海氷が今夏は少なく、これまでで2番目に少ない面積になっているのがわかります。
Figure 2は現在の北極海の海氷分布を示しています。図の右側、カナダ多島海中の海氷は大部分が融解し、融け残った箇所も密接度の薄い氷が広がっているところが多くなっています。図の左側、シベリア沿岸付近では、ラプテフ海西部に広がっていた海氷が後退し、Vilkitsky海峡周辺の海氷も疎らになってきています。
Figure 3. 北東・北西両航路上の各海域における海氷状況.
Figure 3は北極海北東航路(図中左、シベリア側)・北西航路(図中右、カナダ側)の通行可能性を示しています。現在は北西航路の南側のルート上で海氷の融解が進み、開通に限りなく近い状況です。
今週の変化を衛星画像などから判断すると、北西航路は、King William島の南側の氷が融解したため、島の南側を迂回するルートには海氷がほとんど無くなりました。しかし、Peel湾の北側とBarrow海峡の西側にわずかに残っている海氷がルート上にかかる可能性があるため、完全開通とは言いづらい状況です。
北東航路においては、Vilkitsky海峡付近の海氷の融解が進みましたが、開通には至っておらず、航路状況としては先週から変化していません。
Figure 4はウェザーニューズで独自開発した海氷予測モデル"I-SEE-Engine"の予測結果です。北極海の海氷域の減少は、今後徐々に緩やかになってきます。図の2日と17日を比べると、Svalbard諸島の北部、北極点付近で海氷の密接度が上昇し、またSevernaya Zemlya島の東部の氷も拡大しているのがわかります。これは、海氷の結氷が始まり、秋に向けて海氷域が再び拡大していくことを示しています。
Figure 4. モデルによる北極海の海氷予測.